お客さんの声1/2 物置利用の築50年超過脇屋を耐震大規模リノベーション

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母屋から脇屋へ移る 二人と一匹が暮らすミニマムな平屋 2階を増築し倉庫にする

※この記事は2017年の年の瀬12月に行われた座談会の様子を再構成しました。当時、島田のコバヤシ建築に在籍していた私が建築の企画から設計、施工と担当させて頂いた想い出深いお宅です。
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「大工の小林さん(親方:小林益裕)とは同級生で知り合いなんです。以前、20年ぐらい前になりますか母屋(おもや)をやってもらったんです。その時大変しっかりやっていただけたので、今回もお願いしました。」

今回お話を聞かせてくださったのは、掛川市で娘さんと二人暮らしをしている田辺さん。

真冬だというのにストーブも暖房もいらない、あたたかな太陽の光が差し込むリビングで、お茶菓子をいただきながらお話をお聞きした。

(聞き手:コバヤシ建築 太田慎吾(20017年当時))

 

お施主さんである田辺さんと娘さん

旧家屋の柱・梁をそのまま活かし、古民家風のアレンジに。新しくもおばあちゃんのぬくもりを感じられる家に変身

田辺さん

「もともとここに六畳二間の平屋の住まいが建ってましてね。当時、小林さんが『この建物はまだ新しいから壊すのはもったいないよ。』とおっしゃってくださって、その古い建物を横へ動かして、広く空いたところへ新しい母屋(おもや)を建ったんです。それからしばらくは古い建物を倉庫として使っていました。」

今現在田辺さん親娘が暮らすようになった平屋住宅(小屋裏物置付き 注:法規的には2階建)は、もともと田辺さんの親御さんが暮らしていた思い出の詰まっている建物だった。

田辺さん

「今回、仕事の都合で離れて住んでいた息子家族が掛川に戻れることになってどうしようかと太田さんへ相談しました。息子たちには母屋に入ってもらうことにして、私たちはこの古い建物を再利用できるかなって。」

太田

「依頼を受けてまず考えたのは構造体の耐震性能はどうかでした。30年以上前の古い建築基準で建てられているので、おそらく耐震補強が必要だろうと。その構造的な制限と法的制限の中でお客様が要望する間取りと出来栄えを保証できるのか設計と工事では苦労しましたが、結果的に成功してホッとしたというのが正直なところです。公的な耐震補強の補助金制度を使えたので、耐震性能をテコ入れするための予算が補充できたのは助かりました。」

田辺さん

「古い柱や梁はほとんど活かしたんですよね。」

太田

「そうですね、最初にこちらで作成した間取りのプランも提出したんですが、田辺さんには明確な住まいのイメージがおありだったので出来上がった間取りは基本的にお施主さんの考えたものです。大変だったのは平屋の建物に家財道具を収納できるよう2階へ固定階段で日常的に登れる小屋を増築してほしいという要望でした。建築費がアップしないように元ある屋根をできるだけ残したいという設計施工上のやりくりは大変だった。

見せ場としては既存の柱と梁がきれいな状態だったので、空間に変化をつけて、古民家風にアレンジしましょうということになりました。玄関、トイレ、洗面脱衣、浴室は今回新しく増築した部分です。」

田辺さん(娘さん)

「本当にきれいにやっていただいて。親娘二人で暮らすには十分です。兄たち家族がこちらに来て同じ母家に二世帯同居するという話も出たんですが、一つ屋根の下というものいろいろと大変なので…。それでそういう思いもあって相談したところ、古い建物の構造を活かしてリメイクするという話になったんです。」

太田

「まさに今時の言葉でいう『リノベーション』でしたね。」

田辺さん

「結構迷ったんです。古い建物を壊して更地にしてから建て替えた方が楽だという話も途中に出たりしました。手間はかかりましたけど、昔からあるものをなるべく活かしたかったので、その希望が叶いました。普通だったら壊しちゃったほうが早いし楽だけど、そういう私の思いを形にしていただきました。本当にありがたいです。」

太田

「昔のものを残したいという強い思いがあったんですね?」

田辺さん

「ええ。やっぱり私のおばあちゃんがいた家ですから、少しでも活かして生き返ればいいなと思いました。私、昔のものが大好きなんです。静岡の家具やさんが知り合いなんですが、ここにあるタンスもケヤキの無垢の木で作ってもらったんです。ここは新しい建物だけど、梁が残り、昔の家具が残り、いい感じになって本当に嬉しい。」

場合によっては古い建物を取り壊し、まっさらな状態から新築した方が早く、自由度の高い家ができる。

田辺邸では施主である田辺さんの思いを第一に考え、工期はある程度長引いても、旧宅のよいところを活かし古民家風のデザインに仕上げた。

天井を見上げると、旧家の梁が今も家族を見守っている

隣接する息子さん家族との距離感も適度にいい感じ。

登校前・下校後にお孫さんが顔を出してくれるのが楽しみのひとつ

太田

「実際、住み始めてみていかがですか?」

田辺さん

「狭いのが少しだけ不便だけど、二人と一匹なのでこのくらいで十分です(笑)」

田辺邸は正しくは田辺さんと娘さん、ワンちゃんの“二人と一匹暮らし”なのである。

田辺さん(娘さん)

「前は部屋が7つもあったので、掃除が大変だったんです。今はこじんまりしていて掃除は楽だし、あったかいし、洗濯物はすぐ干せるし、本当によかったです。隣が茶畑なので、窓から緑が見えるし、陽が入るし、天井が高いので解放感もあります。」

田辺さん

「孫が毎日学校に行く前に『おばあちゃん、おはよう』って顔を出してくれるんです。犬に会いに来るだけで、私はついでかもしれませんけどね(笑)親が共働きなので、学校から帰ってくると、また『ただいま』って来てくれます。親が仕事で遅いときには、ここで一緒にごはんを食べることもあります。楽しい思いをさせてもらっています。」

田辺さん(娘さん)

「同じ土地だけど、同居でもないし、距離は近いけどキッチンやお風呂など水回りは別だし、そのあたりは暮らしやすいですね。お嫁さんは多少気を遣っていると思いますけど(笑)」

田辺さん

「昔は大勢で同居していました。今は別々だけど、何かあればお互い助け合える関係なので、気持ち的にも楽ですね。お勤めをしているから、自分の時間はゆっくりしたいでしょうし、生活のペースも好みも違いますからね。今はとてもいい感じです。」

西隣には息子さんご家族が住んでいる。すぐ隣なのでお互い安心して暮らせるが、それぞれのプライベート空間はきちんと保っているのが魅力だ

狭いながらも収納スペースをうまく設け、大切なものはとっておけるよう配慮

太田

「家づくりでこだわったポイントは他にもありますか?」

田辺さん(娘さん)

「広い家から小さな家に移りますから、収納スペースにはこだわりました。昔のものもかなりあったので、リサイクルに回したのもたくさんあります。」

田辺さん

「私がなかなか捨てられなくてね~(笑)82歳でしょう。頭が昔の頭だから、何でももったいなく感じちゃって捨てられないんです。」

田辺さん(娘さん)

「二階に収納スペースを作ってもらいました。はしごで上るような屋根裏の収納だと上り下りが大変なので、階段をつけてもらいました。収納用の棚も作ってもらいました。小物が入れられるのでとても便利です。」

田辺さん(娘さん)

「タンスも捨てられなくて(笑)寝室の横にタンス置き場も作ってもらいました。」

田辺さん(娘さん)

「思い切って居室数を減らして、そうした収納のスペースを考えてもらったんです。」

田辺さん

「よく考えて作っていただきました。私がいなくなったら、古いものは全部片づけてもらえばいいかなと(笑)」

田辺さん(娘さん)

「あと、車を置く台数も増えたので、駐車スペースを広くして、庭の部分は小さくしました。草取りが楽になりましたね(笑)」

太田

「建物の工事だけでは住まいは完成しませんからね。そのあたりは積極的に提案させて頂きました。」

田辺さんの後ろに見えるのはこの家を建てる前から大切にされている家具。古民家風の内装デザインにマッチしている

夏はオール電化で快適に、冬は断熱性能の高い作りで暖かく…

寝室の明るさの秘密は、ブラインド付きの天窓

冒頭でもお伝えしているとおり、お話をお聞かせいただいているこのリビングは、真冬(12月)だというのにとても暖かい。

しかし、周りを見渡してもストーブも、暖房も、スイッチが切られているのだ。

暖かさの秘密は、母屋に負けない断熱性能にあった。

太田

「そういえば今は12月ですが、部屋の中がとても暖かで良かったです!古い建物のリフォームで断熱性能を上げるのは大変ですから。」

田辺さん

「工事が去年の12月から始まって、住みはじめたのが4月ですから、初めての冬なんです。工事をしている頃大工さんたちが『この家は暖かくていいね』とおっしゃっていたけれど、本当に暖かいです。」

太田

「暖房はつけてますか?」

田辺さん

「今はつけていませんね。晴れて日差しが入れば何もつけなくても本当に暖かいんです。」

太田

「最新の高性能グラスウール系断熱材で建物をすっぽり覆ってますし、サッシの部分にはRow-eのペアガラス※も使っているので、母屋に比べたらこちらの方がかなり断熱性能は高いと思います。」

※2枚の板ガラスを使用して作られた断熱ガラス。室内の熱が外部に漏れにくいよう特殊なコーティングがされている。

太田

「逆に夏場はどうでしたか?」

田辺さん(娘さん)

「クーラーの効きはいいですね。それとオール電化にしてIH調理器に変えたら夏の調理が前ほど暑くないんです。直火を使わないとこんなに違うんだってびっくりしました。」

太田

「奥まった部屋でも天窓から太陽の光がほどよく差し込んでいるようで良かったです。」

田辺さん(娘さん)

「寝室も天窓があるから明るく健康的で、昼間は照明もいらないくらいです。調光できるように天窓には電動ブラインドをつけてもらいました。」

寝室の天窓。朝になると光が差し込んできて、さわやかな朝を迎えられそうだ

太田

「天窓は玄関ホールと寝室の2ヶ所につけました。玄関ホールは和風テーストなので、光道に樹脂製の障子をはめました。光がやわらかくなります。こうするとナチュラルな明るさになります。」

 

こちらは玄関の天窓。障子風の天窓になっているため、やわらかい光が差し込むのが特徴

この後中二階の収納スペースを見せていただいた。

とっておきたいけど普段使うことのないものは、この収納スペースにきれいに整頓してしまわれていた。

限られたスペースもうまく生かし、広すぎず、狭すぎず、ゆったりとした空間で、これからも快適な生活を送ってほしい。

「散らかってますけど…」と言いながら見せてくださった中二階の収納スペース。段や棚をうまく使い、物が置けるスペースを拡大しながら有効活用されていた

 

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